著者の出井秀行さんから献本いただいた。Web では Gushwell さんとお呼びした方が通りがよいだろう。窓際プログラマーの独り言あらため Gushwell's C# Dev Notes、あるいは C# プログラミングレッスンで著名なあの Gushwell さんの著書である。
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目次など記載の出版社様ページはこちら、Gushwell さんご自身によるサポート ページはこちらから。
一言でいえば、新人にはとりあえずこれ渡しとけば OKの一冊である。
C# の学習資料は Web に充実している。DOBON.NETしかり、++C++;// 未確認飛行 Cしかり、そしてもちろん先に上げた Gushwell さんのブログ、メルマガしかりである。ただし一方で、パラパラとめくり、付箋でメモりながら、時と場所を選ばずに読むことができるという優位性が紙の本にはある。あるいは逆に、コピペできない不便さが、サンプル コードの写経への強制力として働くかもしれない。
しかし Gushwell さんの語り口はおもしろい。ともすれば淡々と事務的に書かれているようで、どこかウェットな、人情味のあるやさしさをたたえている。なんとも不思議な文章を書く人である。そしてそういった文章は、実に初心者にフィットする。
C# という言語は進化の著しい言語だ。いまや当初から比べれば仕様もずいぶん大きくなった。それは、300ページそこそこの単行本サイズには土台おさまるものでもない。
ところが Gushwell マジックである。なぜだかよくわからないが、この本にはそれが無理なく収まっている。値型と参照型、ボックス化、ポリモーフィズム(多態性)、そしてラムダ式や LINQ のみならず dynamic まで。初心者が過不足なく学べるよう巧妙に配慮され、あまり深入りせず、けれど躓きやすいポイントにはコラムで先回りした文章たちが、整然と並んでいるのである。
また、本題に入る前に Visual Studio によるデバッグ法に触れられているのは C# ならではといったところ。IDE を使用したブレークポイントの使用、それにステップ イン、ステップ オーバー、ステップ アウトについての解説がまずある。実際のコードの動きを知ることの大切さ、動かしながら学ぶことのたのしさが強調されている。
ただ一点注意しておきたいのは、本書の冒頭「本書を読むにあたって」にも書かれているが、まったくのプログラミング初心者を対象とした本ではないというところである。「『変数』『代入文』『演算子』『条件分岐文』『繰り返し文』について理解していることを前提としています」とあり、個人的にすこし付け加えると、なんとなく使ったことあるだろう程度には配列についての知識を期待しているように思われる。
一見すると対象読者が狭いようにも感じられる、が、実際のところこれって、いわゆる新人さんにはよくありがちなスキル セットではないだろうか。プログラミングについて勉強してきました、でもアプリケーションの作成経験は、えーっと、がんばります、みたいな。
だからこれ、入門書として、もっともとは言わないまで、かなりマスをターゲットにしているんではないかなーと僕には思える。というか、そもそもそこさえわからない場合は、先輩が手取り足取り反応を見ながら教えた方がよいだろう。
というわけで、C# をすでに知っている方には読む必要のない本ではある。けれど、不必要な本ではないかもしれない。あなたの後輩のために、一部署に一冊、購入しておいて損はない。いまから C# を学ぼうという方にとって、本書は明らかにすばらしい選択肢だ。
まずはこの薄い本から。秋の夜長に C# をはじめよう。